明日を信じて

昨日も今日も、屁理屈的にはちっとも変わりはないけれど、だけどお正月。まずは

明けましておめでとうございます。

私にとって、ひとつ歳を取るっていうのは、人生の残り時間がそれだけ短くなったということでしょ。だから、
「明けましておめでとうございます」なんて言われても・・・なんて、嫌味なことは言わないことにしましょう。なんたってお正月なんですから。

私、今年85歳。75歳の後期高齢者をあたふたしながらもスイスイと過ごし、80歳の末期高齢者をなんとかかんとかスイと過ごして、遂に85歳の終末高齢者となりました。90歳の終了高齢者までヤットコサットコ生き延びても、私、赤ちゃん返りになっているでしょうから、エンエン生き延びるのも問題です。ハイ、ホドホドに生き延びていきます。

ニコニコハートでお正月を迎えた人もいるでしょうけれど、
でも、諸星詩織さんの短歌にあるように

寂しさと貧乏だけがある部屋を お正月がのぞいています

という人もいらしゃると思います。
今、「お正月もへちまもあるか」とうそぶいておられるかもしれませんが、でも、正月ですから、宮脇欣子さんの詩「積木」のように、明日を信じて・・・ね。

積 木

あすの日に
昇る朝日があるように
わたしの未来にも
よろこびの声にめざめる
朝の訪れが必ずくることを信じ
わたしは 今日の日を生きていく
積み重ねては 築きいく
積木のように わたしは

わたしの人生を
一つ一つ力一杯
積み重ねていく
今日という この日を
色づかせながら

あすの日に
咲く花があるように
私の未来にも
幸せの花があざやかに咲き
ほころぶ日の訪れが必ずくることを信じ
わたしは 今日の日を生きていく
踏まれても 踏まれても

芽を出す 雑草のように
私の人生を
一歩一歩力強く
歩いていく
苦しみと手をとり
語りあいながら

※諸星詩織ーー本名 糸満久美子。 1949年沖縄生まれ。詩集「憑かれた口笛」「愛ポポロン」など。
宮脇欣子ーー盲目の詩人。NHK第一放送の「朝のポエム」で「今を生きる」という詩が朗読された。1971年わたぼうし音楽祭で入賞し毎日新聞社賞を受賞した。掲載の詩は詩集「だから お母さん」より。

※このプログの「ご挨拶」のページに、私の近況などを綴った今年の年賀状を掲載しております。ご一読頂けたら幸甚です。

驚天動地の1年でした

もう12月!!!

今年はとんでもないことばかり起こって、驚天動地!!!

戦争なんて、過去の遺物と思っていたのがよみがえり、ロシアの国民の皆さんが「???」と思わないなんて摩訶不思議です。

安倍総理が暗殺され、安倍総理と統一教会の関係がバレタと思ったら、芋づる式に統一教会になびいている議員さんが続出。
自民党って政党はどうなっているんでしょうか。
議員という名のオエライさんたちは節操がないのでしょうか。
もし、安倍総理が暗殺されなかったら「公明党は創価学会」、「自民党は統一教会」となっていたのでしょうか。
アナ、恐ろしや!!!

北朝鮮や中国がわがニッポン国を襲うかもしれないとのことで、軍備費を大幅アップ!!!
北朝鮮がわがニッポン国に戦争を仕掛ける大義名分なんてまったく考えられないし、北朝鮮が海を隔てたわがニッポン国を占領し統治するなんて、いくら金正恩だって思う訳がありません。
中国だって、チッポケな離れ島を取るために、わがニッポン国やアメリカを相手にしてまで戦争をしかけるなんて、ソロバン勘定の得意な中国の損得勘定に合うはずがありません。

でも、戦争を仕掛けられたら、やられる前にやっつけようと、べらぼうに値段は張るけどはるか彼方の敵のミサイル基地を狙えるミサイル・・・敵がミサイルを発射する寸前をキャッチして発射するミサイルとのこと・・・を準備するそうです。
フーン、そんな1秒を争うようなこと出来るの? 神業みたい。

そんな凄いミサイルを持てるなら
「備えあれば憂いなし」というように、わがニッポン国に飛来するミサイルを片っ端から打ち落とすミサイルを準備した方が安上がりだろうし、わがニッポン国をハリネズミ列島にした方が良いと思うけれど・・・「わがニッポン国の男がスタル」てんで、やられる前にやっつけようと、わがニッポン国のオエライさんたちは考えるのでしょうね。
アナ、恐ろしや!!!

国を守る費用は、国民が負担するというのはよく分かるけれど、機先を制する武器にお金を注ぎこむより、スイスみたいに「備えあらば憂いない」に徹して、防衛のための武器にお金をつぎ込んだら、敵は戦争を仕掛けてもムダとあきらめるにちがいありません。、

てなことを、ウジャウジャ云っても犬の遠吠え。話をコロリと変えて、
私、今年は生涯で輝ける年になることになっているんです。1月1日の「夢旅人」に、意気揚々と書いた文章は、

私、寅年で獅子座の生まれ。凄いでしょ。今年は我が人生最後の年男となりました。そして、凄いことには、今年の虎は36年に一度の寅年で、最強の虎!!!

と、言う訳で「買わなきゃ当たらないけど、買っても当たらない」宝くじだから、今迄買ったことはないけれど、今年は買えばきっと7億円をゲット。夢の世界一周の船旅が実現することになっているんですね。

かくして、一金3,000円也を投じて宝くじを2回も買ったものの、2回ともゲットしたのはなんと300円。こんなバカなことってある?
悲憤慷慨したけれど、冷静になって考えると、年末に最後の歳末宝くじがあるでしょ。三度目の正直できっと最後に当たる!!!
かくして、お正月には、孫たちに途方もないお年玉を上げられると、うちのかみさんにニコニコして言ったら、かみさん、
「寅年生まれの人って、あなただけじゃないのよ」と実もふたもないことを云う。

ウーン、ウン百万人いる寅年生まれの人の中から宝くじに当たる人は一人だけなのか・・・。だけど、私、「寅年で獅子座」最強の最強の2本立てだから・・・ハイ、宝くじ当たることを信じてます。
と、言う訳で、私、最強の虎になるかどうか、乞う、ご期待!

今年1年、この「夢旅人」を読んで頂きありがとうございました。来年もよろしくお付き合い頂きますようお願い申しあげます。
では、来年も素敵な年になりまうよう・・・エート、来年こそは素敵な年になりますようお祈りいたします。

楽しく歌って

2021年に東京オリンピック競技大会組織委員会会長の森さんが失言を振りまき「老害」とたたかれ辞めることになってしまった。

私、合唱団「北九州をうたう会」で、エンエン20年間も歌ってきて、あげくの果てに「代表幹事」になってしまったものの、森会長と同じく名前も一緒、年齢も一緒。
テレビや新聞で「森辞めろ&森辞めろ」と叩かれているのを見ていると、他人事とは思えなくなってしまった。

どうやら「老害」というものは、自分では「老害」なんて思ってなくても、周りには「老害」をまき散らしていることになるらしい。それで、森オリンピック委員会長と同じように、私、面と向かって「辞めろ」と云われる前に、「代表幹事」を辞めることにした次第である。

北九州市には、わがニッポン国にある合唱団の中でも、最高に入団資格が厳しいといわれる合唱団がある。いくら上手に歌えると云っても入団できる訳ではない。その厳しい入団資格というのは「80歳未満はお断り」・・・そう、そして合唱団の名前は、

「80歳からの合唱団」

私、昨年83歳。幸いにもこの厳しい入団資格をクリアー出来るということもあって、さっそく入団したが、会員の最高齢は94歳。なにしろ、80歳は若手ということになっているから、私、83歳にして中堅のバリバリである。「ジジイ」なんて言っては困る。

この合唱団は2018年に設立され、第1回の演奏会を開いたもののコロナのため、練習も演奏会も中止せざるをえなくなっていたが、ようやく11月17日に第2回演奏会を戸畑市民会館で開催することになった。

無論、私も出演し「故郷」や「雪」などの童謡唱歌や「上を向いて歩こう」や「幸せなら手をたたこう」など12曲を歌い、すこぶるいい気分。
童謡「七つの子」を「カラスなぜ泣くの カラスの勝手でしょ・・・」と歌いたいと思ったが、「カラスなぜ泣くの カラスは山に・・・」とちゃんと歌うことになった。真面目な合唱団である。

この合唱団は、一見「ジジババ合唱団」と誤解されるかもしれないが、とんでもない。合唱の指揮をされたのは、プロ中のプロである岩﨑洋一先生。東京藝術大学声楽科卒業、北九州市少年少女合唱団で38年間指揮をとられ、全日本合唱連盟ジュニア・コーラス・フェスティバル全国大会では5回出場し「あおぞら賞」を受賞。現在北九州音楽協会理事長・福岡県合唱連盟顧問でもある。

ピアノ伴奏は、ピアニストの古賀千恵さん。北九州市出身で桐朋封学園大学卒。ドイツ国立ミュンヘン音楽大学院修了。ヨーロッパで1994年からルーマニア国立放送交響楽団等と共演、多くのリサイタルを行って2000年帰国した。

演奏会の指揮も演奏もプロ中のプロ。かくして、合唱団もシロウト中のシロウト・・・ではなくて、80歳以上にしては上出来の上出来と自画自賛している。

メンバーには80歳以上という自覚に欠ける人が多いが、建前は80歳以上となっているから「お年寄りをいたわりましょう」の精神で、岩﨑先生の指導はとってもやさしい。
先生が「このように歌いなさい」と言っても、みなさん「ハイハイ」と答えるだけで、次の練習の時には、ケロッと忘れるようになっている。だから、岩﨑先生、ムダな指導はやらず、
「ハイ、良くできました」とニコニコ。上手に歌えたかどうかなど、心配しなくてもよろしい。ストレスなしで、楽しさいっぱいの合唱団である。

そして、この歳で「老害」ならぬ「老音」をまき散らす「場」があるとは、わが街北九州市は素敵な街である。

 ※ 北九州をうたう会ーーー1978年、市制15周年を記念して、日本を代表する作曲家 團伊玖磨と本市に縁の深い栗原一登の作詞により作られた合唱組曲「北九州」。300人を超える市民合唱で雄大に歌い上げられる“ふるさと讃歌”は、ふるさとを愛する私たちの心に大きな感動を与えてくれます。
管弦楽は九州交響楽団、小倉祇園太鼓保存振興会 響會が勇壮な太鼓演奏で北九州の音の風物詩を演出します。

国家の領有権って

秋真っ盛り。
私、夏は暑いから大嫌い。冬も寒いから大嫌いと言いたいけれど、クリスマスやお正月があるから「マ、いいか」と言いたいが、ウーン、やっぱり冬はイヤ。
だから好きなのは春と秋だけれど、私、とっても年寄りだから、華やかな春より寂しげな秋が似合う。

そう、俵万智の短歌 のように

陰翳の 季節と思う 秋の靄 人の心と 街を包んで

なんですね。

そして、若い人ならば、春に恋して夏に燃え秋に恋を失なってと、村木道彦の短歌のように

失恋の<われ>をしばらく刑に処す アイスクリーム断ちという刑

と、いうこともあるでしょうけれど、でも、これって恋をした証拠だから、シアワセなんです。私、とっても年寄り。恋などしたくっても出来ないんですから・・・。
ウーン、失恋してみたい!!!

ところで、朝日新聞の10月24日の朝刊に、2面を使って全面広告が出ていました。

世界を敵にまわして,生き残ったヤツはいない.。

写真もイラストまなく、ただこの大きな文字だけ。右下の片隅に小さく「世界も試されている。宝島社」と掲載されていました。

宝島社って、ファッション系雑誌の出版社と思っていたけれど、こんな憤懣やるかたないメッセージも出すんですね。私の記憶では、今までに2回ほどこのようなメッセージ広告を朝日新聞に出しています。

1回目はコロナで日本中がジタバタしていた頃の朝日新聞の2021年5月11日の紙面。2頁いっぱいを使い、かっての戦争で動員された子供たちが竹やりを持って構えた薄いモノクロ写真をバックに、真赤な日の丸を模したウイルスが紙面の真ん中に描かれていました。

ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戦えというのか。このままじゃ、政治に殺される。
私たちは騙されている。この一年は、いったい何だったのか。いつまで自粛すればいいのか。我慢大会は、もう終わりにして欲しい。ごちゃごちゃ言い訳するな。無理を強いるだけで、なにひとつ変わっていないではないか。今こそ、怒りの声をあげるべきだ。※1

そして2回目は、2021年9月22日の紙面です。

国民は、自宅で見殺しにされようとしている。今も、ひとりで亡くなっている人がいる。涙がでる。怒りと苦しみでいっぱいになる。この国はいつから、こんなことになってしまったのか。自分で守るしかないのか。※2

今回のメッセージ広告は、コロナではなくウクライナ侵略のことをいっているんですね。敵味方なく多くの兵士が殺されていく戦争。こんな無慈悲なことが許される訳がありません。

朝日新聞に鷲田精一さんの「折々のことば」というコラムが毎日掲載されています。11月12日のコラムには

戦争が起こるということは、個人の身体に対する国家の領有権が極限まで拡張するということだーーー李琴峰

と、ありました。そして

「大空と大地に抱かれて安らかに」死にいくこと。それが人に等しく与えられた権利のはずだと。

※1 「夢旅人」2021年5月15日号の「啖呵を切って」に関連記事を掲載。
※2 「夢旅人」2021年10月1日号の「命令一下、右向け右」に関連記事を掲載。
※ 村木道彦・・・1942年生まれ、歌人。1974年歌集「天啓」を刊行。
※ 鷲田精一・・・1949年生まれ、哲学者。大阪大学、京都市立芸術大学等の名誉教授を歴任。
※ 李 琴峰・・・1989年台湾生まれ、作家。日本在住で芥川賞を受賞。 

ご機嫌いかが 4

日本シリーズ2022は、なんとオリックスが優勝!!!

私は、生粋のジャイアンツファンだから、どこのチームが勝とうと「どこふく風」だけれど、オリックスファンなら、失礼ながら26年ぶりの日本一だから
すっごく「驚き」に違いありません。

そして、私もとっても年寄りでしょ。だから毎日が「驚き」の連続!!!

見逃したはずのドラマに 見覚えが  ※1
何をしにここに来たかと考える  ※2

と、残り少ない人生の貴重な時間をムダにしながら生きています。

と、いう訳で、今日の「ハードボイルドに恋をして7」は、2022年4月15日のプログ「ご機嫌いかが 3」の続編です。

 驚 き

かれの顔はアルファベットの〝Q“だらけになった。眼、口、頬、鼻孔がOの形になったのだ。
角川書店「悪党たちのジャムセッション」ドナルド・E・ウェストレーク/沢川進訳

私は、もう何年も正直に汗水たらして働いたことも、酒も飲まずに一日を終わったこともなかった。おかげでここ三週間のあいだにおこった出来事も定かに覚えていない始末だ。
早川書房「酔いどれの誇り」ジェイムス・クラムリー/小鷹信光訳

病院に受け入れられた速さという点ではおそらく私が最高記録保持者だろう。ふつうなら、係員がこっちの健康保険の確実性をチェックしいているあいだ受付のデスクでえんえんと待たされ、そこいらじゅうを血だらけにしてしまったりするのだが、・・・スイスイもいいとこ、アレヨアレヨという間に入院してしまった。
角川書店「暗くなるまで待て」トニー・ケンリック/上田公子訳

外では、母なる自然が十年に一度の最悪の冬だという気象庁の発表に感嘆符をプラスしていた。
早川書房「死者は惜しまない」ナンシー・ピカード/宇佐川晶子訳

(俺たちが発行している「文芸書評及び文芸」という新聞は)
・・・実にまともな内容のものだ。いったいどんな人間がわれらが格調高き紙くずを買うのか、どうしてもわからないのだが、とにかく誰かが買っていることだけは確かだ。
二見書房「ピンク・ウォッカ・ブルース」ニール・バレット・ジュニア/飛田野裕子訳

(ベッドを共にした彼が不意を衝いてやってきたので)
わたしの心臓は伸長回転、うしろ宙返り、屈伸回転といった三連続技を決めた。
集英社「コンピューターから出た死体」サリー・チャップマン/吉澤康子訳

一週間前には、小さな丘で幸せな隠遁生活を送っていたのに、今のぼくは、・・・72年型の走る凶器のなかに閉じ込められている。人生はまさに、経験の喜びに満ちあふれた不思議で美しいカーニバルだ。
東京創元社「仏陀の鏡への道」ドン・ウィンズロウ/東江一紀訳

(ニューヨークの財団の仕事を引き受けると言ったら、ニューヨーク嫌いの夫のジェフが)
「きみが引き受ける決心をしたら、ぼくとはこれまでだな」
わたしはまじまじとジェフを見た。
「わたし、何か聞き落した? それともわたしたち、筋道の通った会話抜きで、いきなりÅ地点からZ地点までジャンプしちゃったの? 永久にニューヨークで働くなんて、誰もひとことも云っていないんじゃない」
角川書店「涙のマンハッタン」ナンシー・ピカード/宇佐川晶子訳

アイルランド人は権謀術数に長け、深謀深慮に富む。普段は脳天気だが、要所要所で知恵を絞る。
早川書房「伯爵夫人のジルバ」ウォーレン・マーフィー/田村義信訳

ドイツという名の「一風変わった、論争好きで危険で勤勉で几帳面で組織的で能率的で神経症的で病的なまでに自己中心的で予測しがたい」国に入った。
新潮社「蘇った鷹たち」ジョセフ・ヂィモーナ/永井淳訳

(分娩に立ち会って)
すると俺の赤ん坊の頭が出てきた。ひゃー、なんて 醜い顔だ。男の目に醜く映る新生児の顔が女に美しく見えるのは不思議だ。これも男と女の生物学的相違だな、とつくづく思いながら俺は数えていった。耳が二つ(確認)、目が二つ(少なくとも目の痕跡らしきものが一対あるが、これはつぶっているんだな。確認)、鼻が一つに穴が二個(確認、確認)。
フロイライン・グリュッツが俺の視線を遮って赤ん坊の腋の下に手をかけ、
「イズ・グッド・イズ・グッド」と云って俺の方にうなずいて見せた。すると、オッセンホーデン医師が彼女の肩越しにのぞき、やましさをともなわずに出産料が取れることを確認した。
医師と産婆が二人がかりで、へその緒がついた赤ん坊を引きずり出した。腕が二本(確認)指が束になり、親指がそれぞれ一本ずつ(確認)、胸と胴が一つずつ(確認、確認)脚が二本(確認)
それから俺は股ぐらに目をやった。俺は見た。
「ひゃー、大変だ」なんてえこった。恐れていたものがついにやってきた。とっさに未来が、恐怖映画の果てしない廊下か何かのように閃めいた。ああ俺たちの欠陥児。悲嘆にくれるマリー。不具ゆえに、なおさら可愛い我が子を抱いて医者巡り・・・行く先々で説明の必要に迫られ・・・。
「ああ、なんという悲劇だ。ベニスのない息子が生まれるなんて!」
「ま、作り方が間違ったんだろうな」と、オッセンボーデン医師が言った」
「女の子だから」
「イズ・グッド・イズ・グッド」とフロイライン・グリュッツ。
「なんだ」と俺は云った。「そういうことか」
扶桑社「最後に笑うのは誰だ」ラリー・バインハート/工藤政司訳

(彼女はいつも体からこんなオーラを発しているかどうか知らないが)
目に宿っている生き生きとした光を集めて利用することができるのなら、私のアパートの電気代を1週間分節約できそうだった。
早川書房「偽りに契り」スティーヴン・グリンリース/黒原敏行訳

「ほんとうにエルビスが好きなの?」
「最高だ」
「おやおや」ジャキーは云った。
「あなたって意外性の人なのね」
早川書房「ロンリー・ファイター」バーラン・コーベン/中津悠訳

スーザンがまた私を見て微笑した。千隻の舟を走らせ、トロイの雲に達する塔を焼き払いかねないほどの強力な微笑だ。
早川書房「歩く姿」ロバート・P・パーカー/菊池光訳

(連邦検事はどこから情報を仕入れたか何度も要求したが)
ヴェロニカもまたそのたびに、折り目正しく〝くそ食らえ〟との意向を伝えた。どうやってネタを仕入れたのかとおれが尋ねても、モナリザの微笑を浮かべるだけだった。おれはその笑みを前にすると、自分が何を訊こうとしていたのかを忘れてしまった。
早川書房「記者魂」ブルース・ダシルヴァ/青木千鶴訳

彼女は長い脚と大きな胸、ハート形のふっくらしとした唇の持ち主だ。髪は濃い茶色でいつも黒く染めてあり、たった今、ベッドを出たばかりといった感じにわざとくしゃくしゃにスタイリングされている。 ~ バーやレストランで男たちの目が彼女に釘づけになるのを僕は見ていた。これは自己投影かもしれないが、男たちが彼女に向けるまなざしは貪欲で原始的だ。彼女を見ると自分の生きているのが、男が常に武器を帯びている時代や場所でなくて本当によかったと思う。
東京創元社「そしてミランダを殺す」ピーター・スワンソン/務台夏子訳

掲載した川柳は、公益社団法人全国有料老人ホーム協会の「シルバー川柳」から
※1  瀬戸ピリカ(神奈川県、57歳、女性、POPデザイナー)
※2 安田三貫也(千葉県 79歳 男性 パート)