神の兵士

 今日は8月15日。終戦記念日。
 詩人鮎川信夫は、1942年招集されスマトラ島に出征、1944年に傷病兵として内地に送還された。その時、病院船の中で、一人の兵士の死に立ち会って「神の兵士」という詩を書いた。 

神の兵士(抜粋)

1944年5月のある夜・・・
ぼくはひとりの兵士の死に立会った
かれは木の吊床に身を横たえて
高熱に苦しみながら
なかなか死のうとしなかった
青白い記憶の炎につつまれて
母や妹や恋人のためにとめどなく涙を流しつづけた
かれとぼくの間には
もう超えることのできない境があり
ゆれる昼夜燈の暗い光のかげに
死がやってきてじっと蹲っているのが見えた

戦争を呪いながら
かれは死んでいった
東支那海の夜を走る病院船の一室で
あらゆる神の報酬を拒み
かれは永遠に死んでいった
(ああ人間性よ・・・・・
この美しい兵士は
再び生きかえることはないだろう)
どこかとおい国では
かれの崇高な死が
金の縁とりをした本の中に閉じこめられて
そのうえに低い祈りの声と
やさしい女のひとの手がおかれている

(注)金の縁とりをした本・・・聖書

 ※ 鮎川信夫・・・1920年ー1986年。現代詩を代表する詩人であり、随筆家・翻訳家・評論家でもある。詩誌「荒地」を主催。 

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