残響

残  響        高塚 かず子

校庭の隅で雫のように小ぶりの朝顔がひらく
となりの席に座っている
涼しい目の同級生の少年
彼が眉間に力をこめると
水平線が正しく引きなおされる
わたしがうまれるすこし前の夏
この街はたちまち燃えた
8月9日 きのこ雲 11時2分
親たちは閃光をむしろ語りたがらなかった
治療できないものをそれぞれにかかえて
生きていくしかなかったから
少年もわたしも瓦礫の残る街で熱心に遊んだ
陽焼けした手足で かくれんぼした
少年は海の色のビー玉を透かして空を見た
どの塀も壊れていて 風が自由に吹き過ぎる
魚のようにすいすい出入りした 私たち
大人たちは路地にうずくまり
七輪で炊事している
生き残ったものは 食べねばならない
夏休みが終わっても 少年は登校しなかった
机の上の牛乳瓶に紫苑が挿され 黙禱した
すずしい瞳は 今も私をまっすぐみつめる
水平線が引きなおされると
私のなかの海は 死者たちの囁きでどよもす
戦争はまだ終わっていない
アスファルトの亀裂から無数の手が伸びる
髪の熱い 水を求めるひとたちの

 ※ 高塚かず子ーー1946年生まれ。日本現代詩人会会員。掲載の詩は1998年出版の詩集「天の水」より。

これってハードボイルド

 私、ハードボイルド大好き人間。その大好き人間が選んだ大好きな言葉の数々・・・
 ネ、素敵でしょ。

 男はタフでなければ生きてはいけない。やさしくなれなかったら生きている資格がない。

「プレイバック」 レイモンド・チャンドラー/清水俊二訳

 貧すると、人は哲学的になるらしい。「人生が思いどおりにいくことなんてあるのかな?」

「悪い奴はを選ぶ」 T・ホワイト/松村潔訳

 彼女は彼を愛すると言っていた。ときどき、彼の方も彼女を愛していると言った。そう言うときは本心から言った。とにかく、その一瞬は本心なのだった。

「小さな土曜日」 アーウィン・ショー/小泉喜美子訳

 人生は単純よ。あなたが勝手にむずかしくしてしまっているだけ。

「騙しのD」 スー・グラフトン/嵯峨静江訳

 いや、歩くというのは正しくない。身体のあちこちを滑るようにして動かして立ち去っていったと云うべきか・・・。

「暗くなるまでまて」 トニー・ケンリック/上田公子訳

 マリー・ロールは俺が風呂と、アスピリンと、眠ることと、かしずかれることにしか興味がない、と言って非難した。つんけんしている彼女に腹を立てた俺も気に食わなかった。要するに何もかも気に入らなかったわけだが、これで俺たちも恋人同士から本物の夫婦になれたようなものだ。

「最後に笑うのは誰だ」 ラリー・バインハート/工藤政司訳

 正論だ。ここが、わが妻の大きな問題のひとつだ。彼女は、頻繁に正論を吐く。

「依頼人が欲しい」 パーネル・ホール/田中一江訳

 「セーラー、おれは結婚したことがある。一度ならず、三度まで。1回目は若き日の過ち。2度目は中年の好奇心のためだ。3度目はーーそう、3度目はいわば老年期の愚行で、おれは貴重な人生のうちの十年を奪われ、貴重な教訓をえた」

「眠れる犬」 ディック・ロクティ/石田善彦訳

 そう、世の中は”‘もしかしたら”と”できたら”に満ち満ちている。それらを頼りに生きているやつらもいる。

「吾輩はカモじゃない」 ステュアート・カミンスキー/田口俊樹訳

真剣な話なんだけれど・・・

 大発見!!! だそうである。そう、ヒッグス粒子。
 かくして物理学会は、テンヤワンヤの大騒ぎ。ヒッグス粒子のおがげで、宇宙が次第に形成されて星が誕生し,それからアアしてコウしてアアなって目出度く人間が生まれたそうである。
 エライ先生曰く、ビッグバンによって宇宙が誕生した直後に光速で飛び回る素粒子を動きにくくして、質量をもたらしたのがヒッグス粒子だそうである。 
 てなことを言われると、世界の冠たる物理学のエライ先生の云われることだから
 「ア そうか」となんとなく分かったような気がするけれど、
 私、「ン ?」
  ヒッグス素粒子によって素粒子が結びつて陽子や中性子が形成され、やがて原子や分子が出来て、星が生まれたと言うけれど、形のない素粒子から、どうして形のある岩や砂や火や水が出来たの?
 まして、人間なんて、どうして母親の体の中で、硬い骨や歯や筋肉や血や絶え間なく動く心臓や目や耳が出来るの?
 これって、遡ればみんなヒックス粒子のおがげと云われても、
 「フーン?」
 まして、ビッグバンで、宇宙が生まれたというけれど、ビッグバンが起きる前はどんな世界だったの?
 そして、宇宙は膨張し続けているというけれど、宇宙の外の世界ってどんな世界なの?
 宇宙と外の世界はどんな境界で区別されているの? 
 私にとって、宇宙は???だらけで、真面目に考えれば考えるほど頭がおかしくなりそう・・・。
 てなことを言ったら
「ソウ八さんてイイ年をして、そんなことを真剣に考えているなんて、アホみたい」と言われそうだから黙っている。
 だから、これってここだけの話。

ユルーイ雰囲気に憧れて

 私が 今年見た映画は13本。

 MI/ゴースト ブロトルコ・ペントハウス・ALWAYS 三丁目の夕日’64・ドラゴン タトゥーの女・顔のないスパイ・タイム・バトルシップ・ブラック&ホワイト・幸せの教室・キラー エリート・裏切りのサーカス・ミッシングID

 ほとんど我がヒーローがドンドンパチパチ撃って撃って撃ちまくり、敵はバッタバッタと倒れてしまうけれど、わがヒーロには何故か弾が当たらないという摩訶不思議にしてスカッと爽やか映画ばかりである。
 だから、ドンパチシーンは記憶に残れども、今にして思えばストーリは曖昧模糊?
 だって、この責任の一端は映画のタイトルにあるのである。カタカナ語ばっかり!!! 漢字まじりのタイトルは、なんとなく想像がつくけれど、私が見たカタカナ語タイトルの映画、どんな内容か想像がつく? チンプンカンプンでしょ。
 映画の翻訳者は、観客は英語が読める人ばかりと麗しき誤解をしているに違いない。
 だけど、私のような生粋のニッポン人には分かる訳がない。プンプン!!!
 古き良き時代の映画のタイトルは、ほとんど漢字まじりばっかりで、「風と共に去りぬ」とか「禁じられた遊び」とか「夜の大捜査網」とか、見なくても映画のストーリが想像できたのに残念・・・。
 ひよっとすると、カタカナ語タイトルだと、見に行かなきゃ分からないでしょと、映画館に行かせる陰謀かもしれぬ。
 今年見た映画で一番良かったのは、残念ながら13本の中にはなくって、NHKBSで6月18日21時から放映された邦画「かもめ食堂」
 私、基本的に洋画専科だけれど、仕事から帰ってきた時、うちのかみさんが見ていたのが「かもめ食堂」。食事をしながら、ついつい見ていたらこれが良かった!!!
 フィンランドのヘルンシキにある小さな日本食の食堂が舞台だけれど、これがすっきりとお洒落で、私好みのデザイン。
 ストーリイは有って無きが如しだけれど、食堂の主人が小林聡美。あとは食堂で働くへんてこな雰囲気の2人の女優さんで、この3人が醸し出すユルーイ雰囲気とシンプルでユルーイ会話。
 ウーン、とっても素敵でした。
 これってドンパチ映画とは正反対の、のんびりゆったりユルーさいっぱいの脱力系映画である。
 なんだか、井上陽水の中で私の一番好きな「白い一日」に通じるものがあって、いい加減年寄りの私にピッタリの映画だったのかもしれぬ。

大大パレードの一日

 6月9日は、私にとって「素敵な一日」でした。
 というのは、NHKBSプレミアムで20時30分から「武田鉄矢のショータイム 小椋佳」が放映され、同じ日の23時からNHKEテレで「SONGS 井上陽水40年間の名曲・名演集」が放映された。
 私は陽水の大大ファン。陽水の「名曲・名演集」では「傘がない」から始まって「氷の世界」でしょ「リバーサイドホテル」でしょ「新しいラブソディー」でしょ、それから、すこぶる付の名曲5曲が流れ「最後のニュース」でEND。たっぷり陽水ワールドに浸って大大大感激。
 「武田鉄矢のショータイム 小椋桂」では「白い一日」を小椋佳が歌って、私、大大大大満足。
 なんたって「白い一日」は、陽水の曲の中でもとびっきり大大大大大好きな曲だからである。特に3番の歌詞が素敵。

ある日踏切のむこうに君がいて
通り過ぎる汽車を待つ
遮断機が上がり振りむいた君は
もう大人の顔をしているだろう

 「白い一日」は小椋佳が作詞し陽水が作曲した曲で、陽水が歌っている。小椋佳も陽水も二人共作詞した歌詞は、前後の歌詞に脈略なく吹っ飛んでいることが多いけれど、曲として流れるとまったく違和感がなく、歌詞の魔術師みたいである。

遮断機が上がり振りむいた君は
もう大人の顔をしているだろう

 この部分の歌詞なんかは、特に惚れ惚れ、いいなぁ!!!
 「語間を読む」という言葉があるけれど「詩間を読む」といった方がいいのかもしれぬ。
 陽水が作詞し奥田民生が作曲した「アジアの純情」なんて、その最たる曲で

北京 ベルリン ダブリン リベリア
束になって 輪になって
イラン アフガン 聴かせて バラライカ
(北京 ベルリン ダブリン リベリア
イラン アフガン 聴かせて バラライカ)

 歌詞だけを読むとチンプンカンプン。
 「これって 何?」となるけれど、puffyが飛び跳ねながら歌うと
 「ウーン、これってアジアの純情なんだ!!!」と納得してしまう。
 ところで、私、イイ年をしているくせに、依然として超多忙。「白い一日」が大大大大大好きというのは、5番の歌詞にあるような一日に憧れているのかもしれぬ。

真っ白な陶磁器を
眺めてはあきもせず
かといって ふれもせず
そんな風に 君のまわりで
僕の一日が 過ぎてゆく