真夏の夜の夢

 アツくってあつくって暑くって、熱さ満載の豪華絢爛な夏がやってきた。 
 「心頭滅却すれば火もまた涼し」と云うけれど、頭に氷を載せて歩く訳にもいかず、どうしたら心頭を滅却することが出来るのか、平々凡人の私には一向に分からない。
 きっと、25度くらいのギンギンと冷え切った部屋で考えると、分かるかもしれないが、我がニッポン国のオエライさんから、クーラーは28度にしろというお達しが出ているので、それもままならぬ。
 でも、よく考えたら、オエライさんたちが、たわむろしている国会議事堂も28度に設定してあるのに違いない。
 だから、オエライさんたちも、カッカと心頭を減却するどころか燃焼させた挙句、思考が停止してしまい、悪口の言い合いしか出来なくなっているのであろう。
 ここは、我がニッポン国のために、国会議事堂の温度を25度に設定してオエライさんたちを正気に戻し、我がニッポン国のあるべき姿について、虚心坦懐に談論風発し左顧右眄することなく遠謀思慮、不撓不屈の精神で一気呵成に熟慮断行してもらわねばならぬ。
 エ? 何? そんなに四字熟語並べたって、ダメなものはダメ!!!
 ウーン、これって真夏の夢なのかなぁ?
 それはともかく、我々、平々凡人は28度の温度に耐えてでも、我がニッポン国のために、オエライさんたちを正気に戻さねばならぬ。
 そして、我がニッポン国が抱える多くの「問題」が、オエライさん達の「お題目」にならぬよう願うばかりである。

お題目    谷川 俊太郎

問題です
アジア大会 問題です
問題です
雄山噴火 問題です
問題です
貿易自由化 問題です
問題です
ベルリン問題 もちろん問題
問題です
その点 あの点 すべて問題
問題問題大問題
どんなもんだい
こんなもんだい

 ※ 「お題目」は、『落首九十九』(1964年刊)より。1962年1月から63年12月まで、「週刊朝日」の焦点欄に時事的なテーマを扱って掲載された。

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