素敵に オギャー

 私の従姉のひとり娘に、女の赤ちゃんが生まれた。何しろ、娘が結婚して3年目、おまけに高年齢出産である。従姉73歳にして、待望の初孫。いとこ夫婦の喜びようは
スゴーーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!
「生まれたてなのに、目はパッチリと黒目がち」
「フーン」ーーー目がつぶれていたら大変でしょ。
「おまけに鼻も高いの」
「フーン」ーーー団子鼻か・・・。
「口はおちょぼ口でかわいい」
「フーン」---口裂け女でなくて良かったね。
「指先も長くってピアニスト向き」
「フーン」ーーー指が長けりゃピアニスト?
「色白で肌はスベスベ」
「フーン」ーーーニキビがある訳ないでしょ。
「そして、私を見てニッコリ笑うの」
「フーン」ーーーそしてワンワン泣いたりして・・・。
「こんなに可愛いと、将来、男に追いかけられそうで心配」
「フーン」ーーーエ? そんなに長生きするつもり・・・
 と、まあ手に負えない。しかし、我が家の孫は、日本一可愛いということになっているので、世のジイ・バア族が何と言おうと、私は
「フーン」と受け流し、いささかも動じることがない。
 そして、出産の時の写真を見せてもらった。ダンナさんが出産に立ち会って写したという。
 時代は変われば変わるものである。私の時代では、子どもが生まれる時に、立ち会うどころか、病院の廊下などウロウロしたら、オトコの沽券にかかわると思っていた位である。現に、私などは出張していて電話で結果を聞いただけである。
 だから、出産シーンなど想像もつかないけれど、アメリカのミステリー作家ラリー・バインハートの「最後に笑うのは誰だ」に、出産シーンが書かれてある。きっと、従姉の娘婿も、こんな気持ちになったんだろうと思うとうれしくなってしまう。

 すると俺の赤ん坊の頭が出てきた。ひゃー、なんて醜い顔だ。男の目に醜く映る新生児の顔が女に美しく見えるのは不思議だ。これも男と女の生物学的相違だな、とつくづく思いながら俺は数えていた。耳が二つ(確認)、目が二つ(少なくとも目の痕跡らしきものが一対あるが、これはつぶっているんだな。確認)、鼻が一つに穴が2個(確認、確認)。産婆のフロイライン・グリュッツが俺の視線を遮って赤ん坊の腋の下に手をかけ
「イズ・グッド、イズ・グッド」と云って俺の方にうなずいて見せた。すると、オッセンボーデン医師が彼女の肩越しにのぞき、やましさを伴わずに出産料が取れることを確認した。
 医師と産婆が二人がかりで、へその緒がついた赤ん坊を引きずり出した。腕が2本(確認、確認)、指が束になり、親指がそれぞれ1本ずつ(確認)、胸と腹がひとつずつ(確認、確認)、脚が2本(確認)。
 それから俺は股ぐらに目をやった。俺は見た。
「ひゃー、大変だ」なんてえこった。恐れていたものがついにやって来た。とっさに未来が、恐怖映画の果てしない廊下か何かのように閃いた。ああ俺たちの欠陥児。非難にくれるマリー。不具ゆえに、なおさら可愛い我が子を抱いて医者巡り・・・行く先々で説明の必要に迫られ・・・。
「ああ、なんという悲劇だ。ベニスのない息子が生まれるなんて!」
「ま、作り方が間違ったんだろうな」とオッセンボーデン医師が言った。
「女の子だから」
「イズ・グッド、イズ・グッド」とフロイラリン・グリュッツ。
「なんだ」と俺は言った。
「そういうことか」

 

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