アトムよ、再び‥‥

 第9回手塚治虫文化賞のマンガ大賞に浦沢直樹の「PLUTO」が選ばれたが、今回の受賞作は「鉄腕アトム」の「地上最大のロボット」をリメイクしたものだそうである。 
 こう云ちゃなんだが、私はむかし昔その昔からアトムファンである。私の息子を膝に抱えてTVのアトムを見たのがウンのつき。子供はさっさとアトムを卒業してしまったが、私だけが落ちこぼれ今だに卒業できないでいる。
 そういう訳で、あまり大きな声では言えないが、私の愛蔵書の中には、1975年に朝日ソノラマから発行された「鉄腕アトム全集21巻」と1977年に講談社から発行された「手塚治虫全集100巻」がある。
 「地上最大のロボット」は、「鉄腕アトム全集」第3巻に載っていたが、昨日の晩ごはんのおかずも覚えていないほど落ちぶれてしまっている私にとって、30年前に読んだマンガのストーリイを思い出せと言っても、夢のまた夢である。
 それで、さっそく原作を読んで、
「ウーン、古くて新しい。ヤッパ、手塚治虫!!!」と改めてファン熱をアップ。これを浦沢直樹がどう料理したのかと,「?」付で「PLUTO」を買った次第である。
 ところが、驚いたのなんのって、リメイクしたものと云えなくはないけれど、まったく新しいマンガに変身!!!
 エライものである。「PLUTO」はまだ2巻しか出版されていないけれど「乞う、ご期待」感がいっぱい。
 私がアトムが好きなのは、ストーリー性が高いのと、ほのぼのとしたユーモア、それと夢あふれるところにある。一方、浦沢作品は、アトムよりストーリィテーリングは長けているかもしれないけれど、ユーモアに欠ける。チョッピリ残念。
 手塚治虫が亡くなったのは1989年2月。その年には「手塚治虫夢ワールド」という展覧会が開かれ、最近でも2003年に展覧会が開かれているが、アニメを最後に見たのは、亡くなった年の7月に東京・高田馬場にある映画館「ATCミニ・シアター」
 この映画館は、「鉄腕アトム全作品一挙上映会」と称して1963年からTVでスタートしたモノクロ版のアニメ193話の内、残存している181話を1日に4話、1ヶ月半かけて連続上映した所である。
 映画館と言ってもは小さな小屋みたいな所で、椅子はなく板張りである。そこに30人位の人が座り込んで見る。でも、見終わったら拍手がいっぱい。私が映画館でスタンティングオベレーションをやったのは、ここが最初で最後。
 アトムが活躍していたあの時代、アトムが言っていた「愛と平和と正義」は、共感をもって受け入れられていたし、そして、それがアトムの魅力のひとつともなっていたのである。
 しかし、アトムが宇宙の彼方に消え、それと共に「愛と平和と正義」も消えてしまった。今の時代、「愛と平和と正義」と言っても、そらぞらしく空しく聞こえるばかりである。
 アトムを過去の遺物としないように、その意味から言っても、浦沢直樹の「PLUTO」は意義があるといえるかもしれない。

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