梅雨まっさかり。
私、雨大嫌い。だから雨の続く梅雨は大大嫌い。
気象庁 天気予報に従ひて 今日も要なき傘持ちありく 奥村晃作
そうです。私、手に物を持って歩くのも嫌いなのに、傘を持ち歩けば忘れるという習性があるから始末に負えません。
だから、雨の日は出来るだけ外出をせずに、糸満久美子の句にあるように過ごせたらいいけれど、これって高望み。
雨の日はぬいぐるみの犬しゃべらせて 終日かるくかるく過ごす
せめて、「ハードボイルドに恋をして7」 の「ご機嫌いかが」のシリーズ最終回、「爽快」を読み「感嘆」して下さい。
爽 快
日曜日の午後だった。私は洗って濡れた手を太陽にかざして乾かしたような気分だった。
二見書房「スキャンダラス・レディ」マイク・ルピカ/雨沢泰訳
今日はすてきな音楽のようにすばらしいので、スキーをする気になれないの。
大和書房「ニューヨークは闇につつまれて」アーウィン・ショー/常盤新平訳
何もかもが快適に感じられた。空気は蒸発した昨夜の夜霧を含んで甘く、隣にはこれからの人生に素敵な予感を抱かせてくれる美人がいる。
早川書房「災厄という名の男」R・D・ブラウン/安倍昭至訳
今は朝、金曜日の朝、気分は最高とまではいかなくても、絶好調の人間の中古品程度の気分ではあった。
早川書房「泥棒は抽象画を描く」ローレンス・ブロック/田口俊樹訳
「・・・やっぱりニューヨークは好きだと思うわ。ジュッと音が出そうな活気があるのよ。サイモン。この疲れはてた世の中で、まだジュッと音をたてるほど元気のいいものがいったいいくつあると思うの」
早川書房「死者は惜しまない」ナンシー・ピカート/宇佐川晶子訳
何がたのしいと言って、人の悪口を言っているときほど楽しいものはない。
しかし本人がいる前ではなくて、いないときに言う悪口ほどたのしい。それも「バカ」とか「ウスノロ」とかいうような単純な悪口ではなくて、もっと多角的に創意と工夫をこらして言うほど、満足がゆくようである。
「さあ、だれかの悪口を言ってみな」
と言われても、悪口を言う相手を思いつくことができないのは、なんという孤独なことであろうか。
新潮文庫「両手いっぱいの言葉ー413のアフォリズム」寺山修司
秋は昔から大好きな季節だ。冬のブルースが流れ出す前に、爽快な気分を味わう最後の季節だから、というだけのことかもしれない。
早川書房「火事場でブギ」スティーヴン・ウォマック/大谷豪見訳
(車の)
窓をのこらずあけると、涼しい秋風が流れこんできた。睡眠不足でぼうっとした頭がすっきりして、順風満帆の人生が流れていくような気がした。
早川書房「火事場でブギ」スティーヴン・ウォマック/大谷豪見訳
感 嘆
「・・・わたしは朝、頭脳明晰でいるつもりなんかありませんからね。ペレに蹴っ飛ばされたサッカー・ボールみたいな頭でいるつもりよ」
「だったら、ぼくが頭脳明晰でいよう。・・・アスピリンは薬箱にはいっている」
「なんて賢い場所にはいっているんでしょう。賭けてもいいわ、あなたってミルクは冷蔵庫に、石鹸は石鹸箱にしまっておくタイプなのね」
早川書房「泥棒は抽象画を描く」ローレンス・ブロック/田口俊樹訳
(14歳の少女セーラが手伝いにきて)
学校が夏休みにはいるころには、オフィスの書類はすべてきちんと整理された。そして、この娘はおれのスケジュールを完璧に把握し、歯医者に行き、離婚した妻たちに誕生日のプレゼントを送るといった、思い出したくもないようなことを知らせ、おれの行動を管理するようになった。
扶桑社「笑う犬」ディック・ロクティ/石田義彦訳
(宝石のついた高価な時計を貰って)
・・・わたしもこれで時計を持ったといういうわけだ。恋多き男の言い訳のごとく薄っぺらで、報われぬ恋人のごとくずっしりと重い。
早川書房「風の音を聞きながら」デイヴィッド・M・ピアス/佐藤耕士訳
赤い髪は長く目は熱帯の海のように、澄んだエメラルド色。肌はとても白く青みがかったスキムミルクのようだ。家の近所のバーでこんな女が隣にすわって、飲み物のチェイスをほめてくれたら、男は人生が変わろうとしているぞと思うものだ。
早川書房「夏をめざした少女」リザ・コディ/堀田静子訳
※奥村 晃作ーー1936年生まれ。歌誌「コスモス」選者。
糸満久美子ーー1945年生まれ。詩集「愛ポポロン」など多数。