1996年5月12日Am5時30分。目覚時計の音と共に電話のベル。いくら朝に弱い私でも、夢の中でナントカさんとアアしてコウしてアアなる寸前であろうとも、これじゃ起きねばならぬ。
電話は先輩の島内さんからのモーニングコール、朝に弱い私を心配しての島内さんの心ずかいである。まさにアアなる寸前だったのに損したなどと決して云ってはならぬ。有り難いことである。
いつものコンビニでいつものオムスビ3個と玉子焼きと煮物と鶏の唐揚げとビスケットとキャンデイとペーパードリッパー付のmoncafeのコオヒイとbrokebondの紅茶とウーロン茶1缶とミルク300mlとアルカリオイン水500mlを買う。
ウーン、だって、これって朝メシと昼メシと非常食兼用のオヤツでしょ。でも、全部食べてしまう訳ではないけれど、山からクタクタになって下りて来ても、体重ちっとも減っていないのは何故かしらん。
島内さんとは武蔵小山駅で待ち合わせ、集合場所の渋谷駅に向かう。メンバーは男性5人に女性が7人。リーダーはすらりと格好いい中山さん。それに比べると男性軍は一見オジサン風・・・いや、よくよく見てもオジサン風。しかし、女性軍は声だけ華やいで、ン? 訂正、声も顔も華やいで一見娘さん風。よくよく見ればオバサン風などとは、チラットも考えたことはない。ホントウである。
西武池袋駅から飯能駅まで約50分。飯能駅でオシッコしてからバス停に行くと、すでに長蛇の列。バス停で並んだ後、オシッコに行けば良かったと悔やんだものの後の祭り。
だけど、人生早まってはならぬ。バスをひとつ遅らせば湯の沢迄行ける上に、絶対座れること間違いなしということが分かる。災い転じて福となす。これもきっとメンバーの日頃の行いが良かったせいに違いない。
湯の沢10時10分着。それから林道をトボトボ歩く。山道ならハツラツ歩くけれど、なにしろ舗装された林道である。トボトボ歩かざるを得ない。でも、30分ばかりで林道にうれしい別れを告げることが出来て、トボトボ歩きからハツラツ歩きに変わる。たった30分でトボトボがハツラツに変わる。良かった!
正丸峠に10時40分に着く。ここで、リーダーの中山さんの号令一下、ストレッチ運動をやる。皆さん、身も心もストレッチという雰囲気だが、私はなにしろ57年間も身体の分解掃除をしていないので、関節は錆び付いたままである。だから身も心もストレッチという訳にはいかぬ。心だけストレッチする。
清本さんがトップを受け持ち山歩き開始。みんなの体力を考えてユーックリユーックリしたペースで清本さんが歩く。ユーックリしたペースで歩くのは誰にでも出来るものではない。清本さんに感謝しながら、四捨五入すれば60歳の私はユーックリユーックリ歩く。
誰かさんと誰かさんの(特に名を秘す)ピーチクパーチクという声の合間に、時折漏れる鳥の声を聞きながらノホホーンと歩く。
お昼の弁当は、シャケのオムスビとシオコブのオムスビと、どちらを先に食べるかと悩みつつ、新緑に染まりながらホンワーカと歩く。ウン、シアワセ。
「あと5分」「あと5分」をウン十回となく聞かされながら、前武川岳に12時39分に到着。ヤレヤレ、もうひとふんばり。かくして全員揃って一緒に・・・スッゴイ、感動。武川岳を12時50分征服。バンザイ! バンザイ! バンザイ!
全員無事に頂上を極めることが出来たのも、ひとえにメンバーの日頃の行いが良かったせいに違いない。
頂上から眼下にせまる武甲山の山肌が痛ましい。自然を傷つけなければ生きていけない人間の哀しさ辛さ。
ここで、一見娘さん風の女性軍がけんちん汁を作って皆に振る舞ってくれる。こうゆう時は、一見オバサン風などと云ってはならぬ。また、ケンチン汁は実をいうと缶詰だったなどと、余計なことも付け加えてはならない。
美味しい。東京独身の私は勿論お代わりをして食べ溜めを行う。
13時45分出発。出発前に「目黒ハイキングクラブ」の旗を持って、全員満ち足りた爽やかな顔をして写真を撮る。イイ顔。
ところがである。行きはよいよい帰りは怖い。ハナからジグザグの急な下り坂の連続である、おっかなビックリでソロソロ下る。私は人生下り坂にかかっているので、せめて山位は上り坂で行きたいものだが、とかくこの世はままならぬ。人生下り坂の人間が下り坂り坂を降りるものだから、加速がついてどうにもならぬ。
何度も転びそうになったが、スッテンコロリンといかなかったので、ひよっとしてひょっとすると、素敵な美人に出会って人生上り坂になるやもしれぬ。
麦坂峠に14時20分に着く。ここで中山さんから熱い紅茶を頂き、ホノボノと25分ほど休む。オ・イ・シ・イ。
それから、なんとなくヤバそうな空の下、トットコ下りて15時10分林道に着く。行きのトボトボ歩きはあっさりしていたのに、帰りのトボトボ歩きのしっつこいこと!
エンエン1時間歩いて名郷に16時10分着。着いた途端に雨が降り出す。途中、雨が降りそうで降らなかったのは、ひとえにメンバーの日頃の行いが良かったせいに違いない。
すぐにバスが来て飯能駅に着く。ここで一応解散。解散したからには、ヤルべきことをヤラネバならぬ。と、云うことになったものの、飯能駅に近くにはしかるべき店がない。
かくして一同、清本さんの縄張りである池袋の裏通りに出向き、そこで、きっちりとヤルべきことをヤッタのは言うまでもない。おかげでイイ気分にで帰れました。
あれやこれや、イイことばかりで帰ることが出来たのは、これも、ひとえにメンバーの・・・特に私の・・・日頃の行いが良かったせいに違いない。
リーダーの中山さん、お世話になった清本さん、鈴元さん、それにけんちん汁の材料一式持ち上げて頂いたメンバーにどうも有難う。
1996年7月 記