北部九州豪雨。私の住む街北九州市でも、市内を流れる川が危険水域に達したので、避難準備情報が出されたけれど冠水することもなく、事なきを得た次第である。
でも、今回の大水害は、よく知っている地名が出てきて、被災された方々の心情を思うと心痛むばかりである。
東北大震災の津波の映像と同じように、今回の濁流のすさまじさは、
「ン? これ、何?」と、現実のものとは思われないほどの衝撃を受けたけれど、最初は貯木場の材木が流れてきたと思った位である。それが、立木と知って
「ア然」となったけれど、従来の水害と異なり土砂と流木に埋もれた映像を見ると、流木災害・土砂災害と言えるのかも知れない。
むかし昔その昔、怖いものは「地震・雷・火事・親父」と言われていたけれど、今や、親父の権威は地に落ちて「地震・雷・火事・水害」と変えねばなるまい。
最近の雨は、一点集中主義のうえに降れば激雨でしょ。それに、梅雨も明けきらないのに、日本国の南北に関係なく至る所で35度以上の猛暑日が発生。
これって、今年だけの異常気象という訳ではなく、毎年の事となるのでしょうから、これからは夏日は30度以上、真夏日が35度以上。猛暑日が40度以上となるに違いありません。
英国の「スターン報告」によれば、1度気温が上がったらアンデス山脈の小氷河が消滅し、5000万人に水供給の危機が生じ、サンゴ礁の80%が白化するそうです。
トホホホ・・・。でも、かかる事態になったのは誰のせいでもなく、私たちが快適な生活を求めて、自然を我がもの顔で支配し、資源を浪費したツケがまわってきた結果でしょうから、我慢するしかないのでしょう。
自然は数百年単位で変化していくものでしょうから、今さら、ジタバタして反省しても間に合わないことでしょうけれど、私たちの孫のその孫のそのまた孫のために、できるだけ不要なものを買わず、再利用やリサイクルを心がけて節電をしたり、外出時の車利用を自転車や公共機関に切り替えたりして・・・ウン、まあ出来ることから初めましょうね。
作者別: 荘八
心にひびいて・・・言葉
梅雨。私は雨がダイキライである。窓の外をシトシトと・・・ドカドカとではない・・・降る雨を見ると、心も穏やかに静まる心地がするけれど、窓の外を歩くのはダイキライである。何故かと言うと、私、雨に濡れるのがダイキライだからである。
むかし昔その昔のそのまた昔・・・きっと誰も知らないんでしょうけれど・・・「雨に唄えば」というミュージカル映画があって、ジーン・ケリーがどしゃぶりの雨の中で傘を相手に夜の街角で歌い踊る有名なシーンがあったんだけれど、ウン、まあ今でも思い出すくらいの素敵なシーンだったけれど、でもやっぱり、私、雨に濡れるのはダイキライである。
だから、梅雨はダイキライ!!! いいかげん年寄りだから、外出しないでノホホンと雨が降るのを見てればいいけれど、何故か忙しく、6月に外出しなかったのは5日だけという散々たる有様である。雨嫌いがつのる毎日なのである。
私にとって、梅雨は憎つき相手だけれど、日本語って凄いんですね。梅雨を表す文字を見ると、優雅で美しい言葉がいっぱいあって、
「梅雨って素敵!!!」と惑わされてしまいそうである。
五月雨、茅花流し、麦雨、田植雨、黴雨、短夜の雨、走り梅雨、水取雨、霖雨、筍梅雨・・・。
言葉って、不思議な力をもっているんですね。そう、詩人 谷川俊太郎の詩「言葉」の通り・・・。
言葉 谷川俊太郎
何もかも失って
言葉まで失ったが
言葉は壊れなかった
ひとりひとりの心の底で
言葉は発芽する
瓦礫の下の大地から
昔ながらの訛り
走り書きの文字
途切れがちな意味
言い古された言葉が
苦しみゆえに甦る
哀しみゆえに深まる
新たな意味へと
沈黙に裏打ちされて
うん、そうなんですね。「ひとりひとりの心の底で」とあるように、ここで私の心に響いた言葉をご紹介します。
朝日新聞朝刊の一面に鷲田清一さんが選んだ「折々のことば」という小さなコラムがあります。そこに掲載されていた言葉の数々から・・・。
でもなぜ、人間は自分と違うものを許せないんだろう ・・・ 川上弘美
海のものとも山のものとも知れないのは、君にとっての彼女であり、彼女にとっての君なのだよ ・・・ 池上哲司
続けるという行為は、えてして新しいことに取り組むよりもエネルギーのいることなのかもしれない ・・・ 山中隆太
ホラは他人をよろこばすためふくもの ウソは自分のためにつくもの ・・・ ある父親
悩みってほんとはすごくシンプルなことをあーだこーだ言い訳することから始まるのね ・・・ 安田弘之
理解し合えるはずだという前提に立つと、少しでも理解できないことがあった時に、事態はうまくいかなくなる ・・・ 村上龍
どん底には明日があり、頂上には下りしかない ・・・ 坂本健一
お前は自分が常に正しいと思っているだろう。しかし正しいことを言うときは人を傷つけるということを知っておけ。 ・・・ 竹下登
女 その2
今日の「夢旅人」は、アメリカのミステリー作家が描いた女性に関する名言・迷言集の続編「女 その2」です。
読んで「ウン、納得」という文章がありますように・・・。
彼女は松林を吹き抜ける風だった。月明かりに照らされた谷を横切る雲の上の青い影だった。そよ風に乗って突然漂ってくるみずみずしい花の香りだった。私が近づいていくと、彼女は顔を上げた。チャイムが鳴った。
早川書房「ブリリアント・アイ」ローレン・D・エルスマン/村田勝彦訳
つまり、印象をひとことでいうならば、自信にみち、なにげないしぐさにも品の良さがにじむ。老舗のデパートの贈答用の包み紙のようにあかぬけていた。
早川書房「泥棒のB」スー・グラフトン/嵯峨静江訳
目の上からブロンドの筋のはいった前髪を払いのけながら、わたしを含めて店にいる男という男を悩殺していったが、視線が絡み合うことはなかった。
早川書房「名ばかりの天使」マイク・リプリー/鈴木啓子訳
チコの顔は小麦色で生気とビタミンと良性の遺伝子でピッカピッカに輝いている。見ているだけでヘルシーな気分になってくる。
早川書房「伯爵夫人のジルバ」ウォーレン・マーフィー/田村義進訳
彼女は信託資金と裕福な旦那と恥辱のもたらす刺激によって作り上げられたゴージャスな女だった。
早川書房「死者は惜しまない」ナンシー・ピカート/宇佐川晶子訳
潤んだ目はどこかしらうつろで、そこに何なりと都合のいい物語を書いてほしい、と男に向って言っているようだった。生れ付き美人なのはあなたの問題だとしてもあたしには関係がない、といわんばかりの態度だ。バストは小さかった。しかし、バストのサイズとそれが引き起こす感情は反比例するのか、と思わせるようなところがあった。
扶桑社「最後に笑うのは誰だ」ラリー・バインハート/工藤政司訳
(ドアが開いて)
信じられないような赤褐色の髪と、一度落っことされて、拾い上げるときにもう一度落っことされたような顔の女が出て来た。彼女は東洋風のドレシング・ガウンを着て、誰かのおならを思わず嗅いでしまったような表情をしていた。
早川書房「泥棒は抽象画を描く」ローレンス・ブロック/田口俊樹訳
(立ち去るジュリアンに向って)
「悪くない」
ふりむいた。「なにが」
「歩き方が」
また冷たい目。・・・
「もうひとつ」ふりむいた。
「きみはいつもこんなに美しいか。それとも今日は特別なのか」・・・
ジュリアンは部屋から出て行き、ピシャリとドアをしめた。
新潮社「追いつめられた天使」ロバート・クレイス/田村義進訳
彼女はでぶでむさ苦しかった、と言っているのではない。ただただ彼女には量があった。それだけだ。
早川書房「泥棒は抽象画を描く」ローレンス・ブロック/田口俊樹訳
謎めいた怒りの言葉を吐いて、ミセス・カルヴァーソンはくるっと向きを変え、他の弔問客に美容整形の驚異を見せつけに大股で歩きさった。
早川書房「死者は惜しまない」ナンシー・ピカート/宇佐川晶子訳
(男なんてクソくらえと言っているのも当然で)
彼女は小柄で、なかなかのべっぴんだった。髪がきれいで、脚が長く、まつ毛も長い。長いほうがいいものはぜんぶ長く、女はこうでなきゃと雑誌に書かれているとおりの娘だった。
彼女なら、男を軽蔑していいさ。
早川書房「汚れた守護天使」リサ・コディ/堀内静子訳
(フランクの秘書は)
都会風の厚化粧の下に、若々しい田舎娘の顔を隠している。ジーンズとブラウスがぴったり体に合っているところから察して、さぞかし雇い主の追跡意欲をそそっているのだろう。
早川書房「凝り屋のトマス」ロバート・リーヴズ/堀内静子訳
(70歳のローズは)
名前とは裏腹に、華やかなところは皆無だが、一部の愛想のいい人々にトゲがあるのと対照的に、物柔らかな雰囲気を漂わせていた。彼女の場合、それは、ごつごつした岩山をよく見たら一片のレースの縁飾りがついていた、というようなものだった。
早川書房「虹の彼方に」ナンシー・ピカート/宇佐川晶子訳
好きな言葉は恋? 愛?
朝日新聞の「Be between~読者とつくる」頁に「あなたの好きな言葉は恋ですか、愛ですか」というアンケートの結果が掲載されていた。
あなたは、どちらが好き?
ウン、私は、いい加減年よりだから、とっくの昔に「恋」時代を卒業して「愛」時代に突入している訳だけれど、慢性「恋あこがれ症候群」に罹っているいるから、ないものねだりで「恋」。
当然ながら、大多数の皆さんも「恋」だと思ったら、なんと
「恋」派は38%。「愛」派が62%。
「恋」が好きな理由は
1 ドキドキする言葉だから
2 青春時代を想起させる
3 特定の相手を思い出す
4 切実さを秘めた言葉
5 心を激しく揺さぶる言葉
だって・・・。
「愛」が好きな理由は
1 相手をおもんばかる気持ち
2 人間以外にも対象が広い
3 恋より深さがある
4 人生でいちばん一番大事な気持ち
5 永続的な気持ちだから
だそうである。
ウーン、なんだか「恋」は軽く「愛」は重いって感じである。そう云えば「恋が愛に変わった」いう通り、恋が進化したものが「愛」という訳なんですね。
そして「人間にとってより大事な気持ちは?」という問いに対しては「愛」が92%、「恋」はたったの8%。
「英語のLOVEの訳語はどちらがいい?」に対しては、やはり「愛」が65%、「恋」が35%。
名前に「恋」の字より「愛」の字が使われるのが多いとおり、「愛」派の方が強いみたいである。
どうも「恋が好き」などと言うと軽薄短小な人間に思われそうだから、私、ここで前言変更「愛」が好きと言うことにしよう。、
そして、このアンケートに寄せられたコメントが凄い!!!
「恋は自由、愛は重たい自由」(東京・81歳男性)
「恋は乞う、愛は会う。ないものを望むのが恋で、そこにあるものが愛でしょうか」(長崎・59歳女性)
「恋は有償、愛は無償」(神奈川・61歳男性)
ウンウン、納得です。
そこで、愛の詩をひとつ。
トレラーに
千個の南瓜と妻を積み
霧に濡れつつ
野にもどりきぬ 時田則雄
これ、「愛」の字はないけれど、ほのぼのと「愛」を感じるでしょ、「・・・妻を積み」なんですね。いいなァ・・・、絵のような風景です。
そして、これも「恋」なのですね。
君と食む三百円のあなごずし
そのおいしさを
恋とこそ知れ 俵万智
この可愛いいカップル、きっと「恋」が「愛」に変わるに違いありません。
でもね、こんな「恋」もあるんですね。
この胸に優し過ぎてる今日の雨
別れの手紙と哀しい酒と
糸瀬久美子
しとしと降る雨と哀しい酒。心に沁みて・・・。でも、大丈夫ですね。きっと。
そして、最後に詩人工藤直子の詩をどうぞ・・・。
痛い
すきになる ということは
心を ちぎってあげるのか
だから こんなに痛いのか
時田 則雄ーー1946年、北海道生まれ。歌集「緑野疾走」など。
俵 万智ーー1962年、大阪生まれ。第32回角川短歌賞受賞。引用した短歌は「サラダ記念日」。
糸瀬久美子ーー1945年、沖縄生まれ。歌集「このゆびとまれ」など。
工藤 直子ーー1935年、台湾生まれ。2008年野間児童文学賞受賞。詩人・童話作家。詩集「のはらのうた」など。
貧乏だけれど・・・
文芸春秋の5月号に「人生には貧乏が必要だ」と題して、佐藤愛子と又吉直樹が対談した。作家も芸人も下積み時代があって、今があるという訳で貧乏時代の話を楽しく読ませてもらった。
自分の貧乏は、辛く惨めで切ないものだけれど、他人の貧乏話はそれを話す本人が楽しそうに言うと、つい
「ウフフ、アハハ」と、笑ってしまう。
貧乏も、その真っ最中はどん底気分だろうけれど、過去のものになってしまうと、笑い話にして吹き飛ばしてしまえるものらしい。
だから、貧乏真っ最中の時に、貧乏気分をさらりと流すことが出来れば、せめてもの救いになると思うけれど・・・そうはいかないのが人生である。
でも、詩人高橋順子は、中高年になった夫が職を失い貧乏生活が始まっても、アッケラカンとして「貧乏な椅子」という詩を書いている。
貧乏な椅子 高橋順子
貧乏好きの男と結婚してしまった
わたしも
貧乏が似合う女なのだろう
働くのをいとう
男と女ではないのだが
というよりは それゆえに
「貧乏」のほうもわたしどもを
好いたのであろう
借家の家賃は男の負担で
米 肉 菜っ葉
酒その他は女の負担
小遣いはそれぞれ自前である
当初男は毎日柴刈りに
行くところがあったので
定収入のある者が定支出を
受け持ったのである
そうこうするうち不景気到来
男に自宅待機が命じられ
賃金が8割カットされた
「便所掃除でも
なんでもやりますから
この会社に置いてください」
と頭を下げたそうな
そうゆうとこころは
えらいとおもう
家では電燈の紐も
ひっぱらぬ男なのである
朝ほの暗い座敷に座って
しんと
煙草を喫っているのである
しかし会社の掃除人の職は
奪えなかった
さいわい今年になって
自宅待機が解除され
週二回出勤の温情判決が下がった
いまは月曜と木曜
男は会社の半地下に与えられた
椅子に座りにゆくのである
わたしは校正の仕事のめどがつくと
神田神保町の地下の喫茶店に
週に一度
コーヒーを飲みに下りてゆく
「ひまー、ひまー」
と女主人は歌うように
嘆くのである。
「誰か一人来てから帰る」
わたしは木の椅子に
ぼんやり座って
待っている
貧乏退散を待っているわけでは
ないのだけれど
何かいいことを
待っているわけでもない
これって、深刻な詩だけれど、詩人の心は貧乏でないに違いありません。
だって、こんな詩を書けるんですからね。
貧乏でも心は豊かに・・・。
ウーン、そうありたいけれど・・・。
※高橋順子ーー1944年生まれ。「歴程」同人。引用した詩は「高橋順子詩集成」より。他に「時の雨」など多数。