12月。途端に冬。寒くってサムーイ。でも、街はクリスマスを装ってイルミネーションが輝き、心弾んで何か素敵なことが起るような気がするけれど
糸満久美子の
ジングルベル街にサンタがやって来た 終わりかけてる恋が哀しい
のように、1年の終わりが恋の終わりとなる人もいるに違いないし、12月と言うのに、一向にラチがあかないアレやコレやにムシャクシャしている人もいるに違いありません。
そこで、今日はこの「これってハードボイルド」を読んで。ひとときのニヤニヤタイムをどうぞ。ちょっぴり心のウサをはらして下さい。
何がたのしいと言って、人の悪口を言っているときほど楽しいものはない。しかし、本人のいる前ではなくて、いないときに言う悪口ほどたのしい。それも「バカ」とか「ウスノロ」とかいうような単純な悪口ではなくて、もっと多角的に総意と工夫をこらして言うほど、満足がゆくようである。
「さあ、だれかの悪口を言ってみな」
と云われても、悪口を言う相手を思いつくことができないのは、何という孤独なことであろうか。
新潮社「両手いっぱいの言葉」寺山修司
「・・・でも、今夜以外なら、いつでも空いているよ。わしは、君に貞淑と、誠実と、純情を誓う。お似合いのカップルだとみんな祝福してくれるだろう。われわれのロマンスは歌にまでうたわれるだろう」
「奥さんはどうするの」
「ええっと、見つからないことを心から祈っている」
早川書房「伯爵夫人のジルバ」ウォーレン・マーフィー/田村義進訳
(電話をかけたところ)
私が何か言う前に相手はすぐにテープに切り換えてしまった。機械、の、声、が、数字、を、ひとつ、ひとつ、しゃべる。あれ、だ。どうしてあんなことをするのか。我らに説教のひとつでもしたいところだが、私もそれほど暇人ではない。
二見書房「処刑宣言」ローレンス・ブロック/田口俊樹訳
アメリカでもっとも政治的に正しくない女であるわたしのママはこういっている。
うまくいかないかもしれないと思ったら、太腿をちらっと見せなさい。
早川書房「父に捧げる歌」ルース・バーミングハム/宇佐川晶子訳
コーヒーを飲めば頭が働くはずだ。本当はビールを飲んで頭の働きを止め、そのうち何となくうまくいくだろうという呑気な気分にひたりたかった。
東京創元社「ピアノ・ソナタ」J・J・ローザン/直良和美訳
完璧な形をしたルーデルの左右の鼻の穴から、それぞれ煙の柱が吹き出し、わたしはそれを深く吸い込んだ。アメリカ煙草のにおいは好きだが、だから吸い込んだわけではない。彼女の胸から出てきた煙だったからだ。この胸にまつわるものは、なんであれ歓迎したい。
新潮社「偽りの街」フイリップ・カー/東江一紀訳
エマ・ウォルッシュは賢かった。わたしにはそれが良く分かった。わたしよりもずっと頭が切れた。頭の切れるボスというやつは始末が悪い。私は落ち着かない気持ちになった。
東京創元社「裁きの街」キース・ピーターソン/芹沢恵訳
「抱いてもらいたいような気がする、トレース」
「気持ちがはっきりするまで待とうか」
「だめ、この優柔不断の一瞬をのがさないで」
またキスをし、それから身体をはなして、大売出しのコートを見るような目で見つめた。
早川書房「二日酔いのバラード」ウォーレン・マーフィー/田村義進訳
「どうして見つめているの?」
わたしはうなずいた。「美人にはいつもこうするんだ」
「他には何をするの?」
「まちがいをおかす」
早川書房『不運な夜」ジム・シーニ/眞崎義博訳
* 糸満久美子ーー1045年沖縄県生まれ。新日本文学校研究科に学ぶ。掲載の短歌は歌集「雨上がりの窓」より。他に歌集「憑かれた口笛」等多数。