飯盛山~オイシクておいしくて

 1997年8月の目黒ハイキングクラブ(MHC)のファミリー登山は飯盛山。リーダーはなんと森さん、この私。MHCのチョー最少山行回数を誇るサボリマンがリーダーになってはと、神さんはいたくご心配あそばされ台風をお使いになり、かくして7月のファミリー山行はお流れ。シメシメ、神様ありがとうという訳で、のんびりと心も軽く8月17日に個人山行で登ることにした。
 一緒に登ってくれたのは、華麗なる堀川さん。スッゴイ。彼女は生粋の独身だが、私も?付だけれどやはり東京独身である。かくしてMHCの希少価値を誇る独身ペアーで飯盛山登山隊を結成。
 大体、私はうちのかみさんの前では、東京で他の女性とデイトしたことはないということになっている。それがなんとツーショットで山に登ることが出来る! こんなにオイシイ話は、そうめったにあるはずがない。
 それに一人で行くと交通費が一金11500円。しかし、二人で行くとペアー券が買えて一金6920円。キセルもしないのに正しく儲かるという、これまたオイシイ話である。
 堀川さんが参加してくれたおかげで、オイシイ話×オイシイ話=心ウキウキとなって、まるで前夜は遠足気分。眠れる訳がない。
 かくして、翌朝ウキウキ気分兼ウトウト気分で目覚め、JR新宿駅発あずさ81号に乗り込む。ゆっくり座ってのんびりと朝食のパン。彼女は一見パン風なれどミソ汁党。それも、ナント独身専科の「あさげ」ではなく、ちゃんとミソ汁を作って食べてきたとのことである。気合が入っている。ウクウキ気分がたちまち引っ込む。
 二人でアアだコウだと話していたら・・・エーット、正確に言えば彼女がアアだコウだナンだカンだと話すのを聞いていたら、たちまちウトウト気分が引っ込む。眠れる訳がない。かくして、私は堀川さんのおかげでウキウキ気分兼ウトウト気分が吹っ飛び、リーダー気分を取り戻して「正しい山の登り方」をしようと決意を固める。
 ウン、堀川さんはエライ。
 あずさ81号を小渕沢駅で降り、お洒落なペンションが点在する八ケ岳山麓を高原列車で清里へ。避暑地の清里に降り立つと、格好は山登り風なれどたちまち気分はリゾート風。私は環境にすぐ適応する優れた習性を持っている。そこで、なんたってまずはかの有名なソフトクリーム。これがオイシイ!!! 感動、感動の嵐。ミルクがしっつこくねっとりと濃厚に、悪女の深情け風情で迫ってくるけれど、喉もと過ぎれば何故かすっきりと、爽やかにオイシイ。
 そこで、悪女をなめなめ次の目的地のパン屋さんに向かう。飯盛山はまだ遥かに遠いのである。焼き立てのパンの香りがこうばしくすがすがしく、処女の甘き香り的風情で漂ってくると、何故か私はフラフラと吸い寄せられるという優れた習性を持っている。
 しかし、そのパン屋さんは有名ということでユウメイなので、レジに10mほどの列が出来ている。この10mを走破するのに10分もかかるなんて、急峻な登りに匹敵する。飯盛山もレジも遥かに遠いのである。ここで、昼飯用と行動食用とおやつ用と翌日の朝食用と翌翌日の朝食用と、いろとりどりのパンを二人で買い占める。
 ウーン、満足。ソフトクリームも食べたし念願のパンも買ったし、後はお洒落なレストランで食事・・・ン? ア、そうか山登りに来たんだと、今度こそ遥かなる飯盛山を目指すことにして、リゾート風気分を山登り風気分にチェンジする。
 平沢の集落を抜け山道にかかると、堀川さんがコンパスの使い方を勉強するという。エライ! ここだけの内緒の話だが、私は来年生誕60周年を迎えるので、忘れるのは誰にもヒケを取らない位得意だが、覚えるのはからっきしダメときている。
 だから、勉強なんて言われると、スタコラサと逃げ出しそうになるのだが、なにしろ、私は、うちのかみさんだけでなくかみさん以外の女性にもヨワイという優れた習性を持っている。それに、今日はツーショットのオイシイ山行である。イソイソと付き合うことにする。
 道が分かれる所に来ると、道標が出ていても5万分の地図とコンパスを使って首っ引きで確認しながら進む。登るに従い可憐な花が色とりどりに咲き乱れ、華やかにして甘美、爽やかにして清楚。きれいがいっぱい。
 「これって高山植物?」と堀川さんが「キャー素敵」とか「見てみて! カワイイ」と立ち止まる。それに後方には八ケ岳、右手には南アルプスがステキに顔を出し「ウーン、スゴイ」と溜息もつかねばならぬ。
 かくして、地図を見、花を愛で山に惑わされて、飯盛山は遥か彼方である。行程は1時間ほどのアロアランスはあるものの、それでも時間配分に気を付けながら登る。これって、個人山行の特権。
 だから、ようやく飯盛山の尾根上に辿り着いたのは11時45分。会報「ほうろう」の飯盛山の案内文に誰が書いたのか知らないが、乙女の乳房のような飯盛山を見て
 「ヨダレを垂らすようなヒンのない事をしないように」と、書いてあったので東京独身の私は、堀川さんに気ずかれないように、ヒンよくゴクリとツバを飲み込む。
 ここで予定を変更して昼食。飯盛山と八ケ岳をおかずにオ・イ・シ・ク食べる。なんとゴージャスでリッチ。これだから山は止められない。
 身も心もおなかいっぱいにして出発。最後の急登を登りきると頂上。バンザイ!!
 広域地図で、パロナマ風に展開する遥かなる山々を確認する。オイシイ眺めを心ゆくまで満喫して下山。下りはトントンと大幅に時間を短縮して、JR最高地点に到着。最高地点の碑に下げてある鐘を、教会の結婚式風にキンコンカンと鳴らし大満足する。そして堀川さんが食べたいと念願していたブドウ味のソフトクリーム屋を探し、ケチケチなめながらJR野辺山駅へ。
 急げば当初予定の列車に間に合うつもりだったのが、ここで大チョンボ。ジャストタイムに着いたのは良かったが、そこは駅の裏側。無情にも、さよならと列車は出たいってしまった。日本の列車のダイヤは、あまりにも正確過ぎる。欧米並みにすべきと、今後は主張することにしよう。
 その代わり、おいしくビールとトロロソバを食べることが出来た。ソバは信州の手打ちである。ねばり気のあるトロロ汁にソバをつけて食べる。これがオイシイ! ソバとトロロのかもし出すハモニー。胃も心も酔いしれるよう。これがオイシサ満ち溢れた飯盛山の最後の打ち止めであった。ウーン、満足。ごちそうさまでした。

1997年10月 記

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