殺した男

殺した男   トーマス・ハーディ

もし、どこか古い飲み屋ででも
彼と俺と出合っていたなら、きっと
同じテーブルを挟んで座り、一緒に
のどを潤しただろう、何杯も!
ところが、歩兵として戦場に送られ、
彼と俺と、にらみ合うことになった。
お互いに狙いを定めて、鉄砲を撃ち、
俺のほうが彼を、その場で殺した。
理由は、彼が敵だったからだ。
敵だったから、俺は彼を撃ち殺した。
それはその通りで、こっちにとって
敵に違いなかった、当然のことーーだが
そもそも入隊したのはひょんなことから、
俺も、たぶん彼もそうで、失業して次の
職が見つからず、家財道具を売り払って、
別にそれ以上、深いわけはなかった。

まったく奇妙なものだ、戦争というのは。
飲み屋でもし会ったら、喜んで何杯も
おごったり、金だって貸してやるような
そんな相手を、撃ち殺すのだから

訳  アーサー・ビナード(詩人)

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